2024年3月の例会報告

毎月、会長が報告して下さる例会報告です。

  • 日時:3月17日(日)
  • 例会出席者:6名

パラダイス仲通り

とても不思議な作品ですね。まず、女性である作者が、自分とは異なる性である男になってクラスメートのHを描写しています。もう一人、Sも描写するのですが、HとSでは微妙に異なっています。Sは友達から金を借りまくり、大学を途中でやめてしまいます。それに引きかえHは特異です。裕福なのに、金銭的な絡みにはならず、平凡に大学を卒業するも、おそらく行方知らずになっているのです。Sのことについても、Hのことについても、作者は作品にて追及することをしません。追及をしないのは、すでに、タイトルにて表示されているからです。〈パラダイス中通り〉とは、HやSの行き交う道であり、逸れる道、世の中であるということなのです。学生の頃、HやSのような奴がいたかも、また、自分がHやSのように行方知らずになったと思われているかも……。

政府広報娘ミラクルガールの罠

 3歳になるかならないとき、5歳を迎えることはできないだろうと医者から言われていた少女が、パッとしない三流大学の研究者によって偶然発見された、『ミラクリア』という成分を摂取することによって奇跡を起こしたのです。ですけれど、その後の成り行きがもろ手を挙げての歓迎とはならないのです。というのも、あらゆるものに対する「美食」行為は、ついには自分で自分を食べてしまうところまで行き着いてしまうのです。狂気の自己愛です。作者の作品はとても過激だなと、何度か思いました。過激なのもよいのですけれど、バランスをとるためには「のほほん」としたような作品に挑んでみるのもおもしろいのではないでしょうか。一色ではなく、いろんな色合いの作品に挑戦することは、自分の筆力を向上させることになります。

白い靴下

 細部はともかくとして、当時の学生運動はこの通りの状況だったなと、思い出します。作者は、この当時はまだまだ若かっただろうに、調べたり本を読んだりして、作品となる材料を構築されたのでしょうか。白い、無垢な靴下を履く、けがれのない学生の、いろいろあったその時代を無事に乗り越えられたことは幸いでした。学生運動をやっていた学生と、やっていないノンポリ学生を、どちらにも肩入れせず、冷静に描写しているのはすごい胆力をお持ちなのですね。ふつうですと、どちらかに肩入れしてしまいます。「白い靴下」というタイトルは、視点人物の作者の立場を表明する「白」なのかと推測しました。あのころは、大学ではほとんど授業がありませんでしたけれど、大量の留年学生が出たわけでもなく、無事に通過できたのは幸いでした。

ひょんなことから

 作品の末尾に、「病気告知されて以来、一度も泣いたことがないが、帰りしな、思いがけず医療スタッフのいじめに遭った」とありまして、『ふるさとの便り』という本を手元において、パソコン打ちをしていた患者=作者の退院の送り出しに、八人の医療スタッフによるウクレレとコーラスとでの退院祝いの送り出しの催しに、気の強い、いつも明るい作者もさすがに目が霞み何も見えなくなってしまったのですが、「先生は、最高の意地悪な方ですね」との精一杯の言葉。たぶん、作者の特性なのでしょう。癌になり、『在宅医が伝えたい「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと 中村明著 講談社α新書』とか、『死ぬ気まんまん 佐野洋子著 光文社』とか、なんとなく病院のベッドで元気に読むようなほんではないように思うところを、作者は読むのですからすごいです。

太陽ジャイアンツ 3

「さくさく」に3回目の掲載となり、なんとなく快く感じていた『太陽ジャイアンツ』とは何か、その意味みたいなものを考えてみました。ジャイアンツと言えば、日本では「巨人軍」です。その巨人軍に冠の「太陽」がついて、―太陽ジャイアンツ―なのです。それが何を意味するかは単純でしょう。一平が率いる、世界の各地から集まった個々の、野球をする仲間たちなのです。集団です。草野球とは、よく言ったもので、太陽ジャイアンツは草野球そのもので、不慣れで、いろんなことが起こるでしょう。そして、考えてみると、一平って不思議です。もしかすると、作者がそのことを十分に理解して書いているのかもしれません。何かといいますと、問題が生じても、一平が率先して解決するのではなく、極めて控えめに対処することによって、正しく進むのです。

映画日記 65

 すごいですね。何がすごいかと言いますと、シャレがすごいです。皆さん気づかれたでしょうか。今回、掲載された『映画日記』は…つまり『映画日記65』なのです。それでもって、それではという気がして、紹介されている映画の本数を数えてみましたら、星印1つが2作品。星印2つが3作品。星印3つが44作品。星印4つが16作品。2+3+44+16=65作品です。すばらしい整合性だなと思いました。こうした愛嬌は、もしかしたら作者は何度もしていたけれど、ユーモアがない坂本がちっとも気が付かなかっただけなのかもしれません。(鈍感なもので…) それにしても、星印5つの作品が、1つもないのは、今回が初めてなのではないでしょうか。コロナ禍の影響で、制作された映画本数自体が減少しているのかもしれません。コロナも過ぎ去りました。次に期待ですね。