2024年2月の例会報告

毎月、会長が報告して下さる例会報告です。

  • 日時:2月18日(日)
  • 例会出席者:9名

読書雑記55

 ロラン=バルト、パトリック=モディアノ、フィリップ=ソレルス、ミシェル=ビュトール、ル=クレジオ、ミシェル=レリス、クロード=レヴィ=ストロース、フランソワーズ=サガンと、『作家の仕事部屋』に収納された25人の内から、上記の作家たちのコメントがなされています。作家ごとの持つクセだとか、個性などのコメントが、その作家の風貌のようなものを彷彿とさせて、この本を読んだなら、その作家の仕事部屋に迷い込んだような錯覚に陥って、楽しいだろなと思われました。クレジオの講演が東京大学であったときには、ノーベル賞を受賞した直後でもあり聴講しました。この作家たちの中では、クロード=レヴィ=ストロースが一番好きです。『悲しき熱帯』は、人間とは何か、人類とは何かを考えさせられて、とても深く感動させられた記憶があります。

緑の鳳翼 3

 この『緑の鳳翼 3』の後、『4』『5』と続くようなので、作品全体のことは『5』を待ってからにしたいと思います。それにしても、すごいですよね。『緑の鳳翼 1』、『緑の鳳翼 2』、今回の『緑の鳳翼 3』で、イチとソラとで農業をやると、大きく舞台が変化して様変わりしました。18歳になり、荻原農園での有機農業体験は、とても細密、具象的な作業の連続で、作者にはこうした体験があるのだろうかと思ってしまいます。実際に体験せずに、こんな風な描写はできないのではないかと考えますが…。もしかすると、単に筆力があるだけなのかもしれませんけれど、とにかく鮮やかです。衣笠葵が久しぶりに登場して、すごく安心しました。葵の存在は大きいでしょう。なんとなくなのですけれど、イチとソラの将来の農園はうまくいくような気がしてきました。

マキシマリスト 4

 私、坂本はスマホで打ち込んでの会話をしたことがありませんので、うっかりと、作品の当事者はスマホの電話で話しているものと理解していましたけれど、言葉を打ち込んでの会話だと、合評会で伺って、驚きました。なるほどなあ、とも思いました。単に、今時の若者言葉の文体が、この作品に反映されているだけだと思っていたのです。だとしても、せっかくの電話で、直接に話さないで文面だけでの会話って何だろうかと思ってしまいます。てんねさんの革命的な文体、とても現代的な文体を発明しての表現なのかと理解していたので、メールだと聞くと、メールもよくはわからないのですけれど、「?」です。それにしても、超現代的な文体だと感心しています。若い方の現代を生きる、その今と、その時間と空間を、若い方は無機的に対応しているのでしょうか。

湖への道

 これまでになく高尾山の広大なふところに入った趣みたいなものを味わいました。高尾山は、山そのものはコンパクトにまとまった小高い山なのですけれど、山裾となると、小山にしてはとても広大なのです。植生の数は、世界一だそうで、驚きです。温帯の植物と、寒帯の植物、その両方が高尾山のまわりを囲んでいるからで、小山のわりには山裾が広い、つまり、懐の深い山だということです。作者の書く高尾山は、よくよく考えると不思議です。「高尾山に登る会」などといったものには所属せず、かといって人嫌いでもなく、山で出会った様々な方とは同行して、共に山を楽しむのです。究極の山好きなのかもしれません。記憶にある高尾山は、25年も前のことです。神園麟さん(新日本文学会)。三輪綾子さん(土曜の会)。坂本和子と坂本良介。若かった頃……。

絶海

 考古学的な発掘調査のために訪れた、ユーラシア大陸の中央部なのですけれど、その細部の描写となると、数々の民族と国の変遷の中に曖昧になってしまいます。湖だけが何世紀にも亘って存在していた証となっています。ある意味では、「男」と語られる男の、千葉の海も、ユーラシア大陸と別世界なのではなく、人間の存在において通底する響きを共有しているのかもしれません。男は、土から掘り出したいくつもの時間の体積から、そんな思いを、ていねいに図田袋に収めるのでしょう。《絶海》というタイトルは哲学的だなあと、感慨深いです。人間は「水」がなければ生きていけません。海も水の一つですから、海が絶えるとは「死」を意味します。「死」を終わりではなく、次へのバトンの手渡しと理解すると、/……弟の死に関してはうまく収められませんけれど。

北海道癒し旅

 この作品を読んでいると、自分が北海道に行っているように感じます。読んでいる作品と、自分の体験が重なって、やけに真実味が増してくるのです。それでもって、なんとなく、得した気分になります。網走刑務所と知床のウトロ港からの知床めぐりの観光船は、楽しさが現実のものとして感じられます。バス酔いするバスガイドというのは、ああ、そういう場合もあるのかと感心しますが、実際にそうしたバスガイドに会ったらビックリでしょう。車酔いするのにバスガイドになることを選択したガイドさんにはアッパレですね。しかもです、「皆さん全員シニアの方で、よかったですね!」には、ほんと、笑ってしまいました。おそらく、このガイドさん、人間が好きなのです。知床めぐりの観光船、天気に恵まれた摩周湖、和やかなガイドさん。よい旅でしたね。

受命者たち

 受命という言葉がわからず、検索してみました。字句通りに「命令をうけること」と出てきました。武装した民間人が、撃墜された飛行機から脱出したアメリカ兵のスキャンラン中尉を、大勢でリンチ、殺してしまったという戦争犯罪なのですが、とても残念な顛末になっています。とはいえ、とても不安でもあります。この事案はかなり昔のことですが、21世紀になって、少しずつ‥少しずつではありますが、他者や、他国に対しての不寛容な振る舞いが増えてきているように感じます。なぜそうなのかと言いますと、経済力の低下があり、国力低下を認めたくないためかもしれません。指示や命令を下す者は、わかりやすい言葉で、文書化して指示を出すべきでしょう。とはいえ、勝つぞ、勝つぞ、と言っていた戦で負けたとなると、必然、不幸な事態になるのかもしれません。