2023年6月の例会報告

毎月、会長が報告して下さる例会報告です。

  • 日時:6月18日(日)
  • 例会出席者:7名

映画日記 63

 この映画評は〈映画日記〉として書かれてきましたけれど、今回からなのでしょうか、「映画月記」になったことに気づきました。その7月は「残るのは希望」の表題下に15作品。8月は「「あなたに何ができるか」の下に21作品。9月は「結末の差」の下に15作品。10月は「生きるために」の下に16作品で、合計67作品でした。そして星ごとのトータルは、★5つが2作品。★4つが24作品。★3つが39作品。★2つが1作品。★がゼロの作品は幸いなことにありませんでした。★が5つついた作品が2つあるけれど、なんとく作者の人柄が偲ばれるなあ、と感じられました。『ドライビング・バニー』は親子の人情ものなのではないかと。そして『RRR』は、いかにもインド映画といった感じで、歌と踊りが、反復に反復して、息もつかせず楽しませる映画なのでしょう。

プレゼント魔

 さっそく冒頭にて、「ひとはなぜ贈り物をするのだろうか」と問いを立てます。それに添えて短いエッセーなどを挟むのですけれど、花と言葉で、よりいっそう花のプレゼントは引き立つし、エッセーがそれなりなら、ますます引き立つでしょう。しかるに、プレゼントした本人は、花よりもエッセーがどのように読まれるのかが気になっているとすれば、いささか面倒です。でも花が贈られて、しかも気持の好い言葉まで添えられていたなら、花で癒され、言葉で心安らぐのですから、その日、一日は充分に満たされます。ありがたいプレゼントでしょう。花は形あるもので、書かれた言葉も形あるものです。道端で会ったご近所さんに、いつもりより心をこめて挨拶をする。それにしても梅琴さんからはいろんな花を頂いております。手入れされた花畑もすばらしいです。

約束 3 ―大学病院にて

 約束1、約束2、約束3に進むに従って難解になった気がしました。直美や美希や里子にある人格の存在が変わってしまう、その「変わる」ということが理解できませんでした。それに、約束1の時の橇でしたでしょうか、それとも乳母車だったでしょうか、乗っていた赤い服の少女の雪の降る光景の中の美しさに魅了されたのですが、それぞれ成長するにつれ現実の中に吸い取られてしまい、日常的なものになってしまったように感じられて、残念な気持ちになりました。おそらく、当初は、非現実的な世界を表現しようと意気込まれていたのだと思います。いかがなのでしょうか。直美と修一との悲恋、または修一が医者になり直美の病の手術をする、そうした道行で不幸になるかもしれないし、幸福になやもしれない、そんなドラマを期待してました。

もし、あの時

 作者にしては、とても変わった作品だなと思いつつ、読み進めていきました。すると「サウスカフェ」といった単語に出っくわして、なんとなく不思議な感覚に陥りました。この言葉から類推するのは、〈グローバルサウス〉という、なんとなく新しい時代の幕開けがくるのではないかといった、昨今の大きな流れでした。弓削の、中学生だった頃の新宿騒乱のことから、いくつかの会社勤めを経て、落ち着いた現在に至り、行き詰まった状況の中に「変化」を感じての、作者がこの作品に辿り着いたのかなと思うのですが、さていかがなのか……。かつてのような暴力ではなく、皆が豊かになることもできるのではないかといった、柔らかい世界の共同意識が生まれるかもしれません。平明な文章ながら、そうした文章表現で深く差す、「弓削」って名前、そのことかもしれません。

永井荷風 女性とお金 その7

 永井荷風はとても面白いです。駒本さんの永井荷風の捉え方は、本筋を捉えているのだと思います。「永井荷風と女性とお金」が荷風のすべてであるのではないでしょうか。荷風はそうした日々に生き、作品を書いたのです。露悪趣味で書いたわけでも、部数を稼ぐことに血道を上げたわけでもないでしょう。永井荷風の後輩に谷崎潤一郎がいますけれど、谷崎の書く女性は、どこか荷風の書く女性と別種な趣を感じます。谷崎には女性を究極的には所有物化するようなところがあります。荷風は、女性を、どこか神のような永遠の他者として、愛したり、邪険にしたりするのです。この後、戦争を耐え忍んだ時代があり、戦後の浅草、ストリップ劇場の踊子とのあれこれや、家族のすったもんだの顛末等々と、たいへんでしょうけれど、読者としては期待しています。

マキシマリスト 2

 一読して、さて、この作品はどのような小説なのかと考えたら、なかなかうまい考えが浮かびませんでした。それでタイトルの意味はなんだろうと、検索してみましたら『好きなものに囲まれて暮らす』とありまして、その『好きなもの』が何か、これもわかりませんでした。もう一度作品を途中まで読んで行くと、やっと思い当たったのです。それは『言葉』でした。思考と言ってもよいでしょう。否定の言葉ではなくて、肯定の言葉で置き換えると、マイナスの状況に陥ったとしても、なんとか、落ち込まずに済むだろうし、逆のプラス思考への転換にさえなるのです。まあ、苦しくても頑張れる状況になり、救われるのです。そのようにして、好きなものに囲まれて幸せになれるのかどうか? タンタンとした展開に透明な孤独感が伝わってきます。

ホテル・エーゲ海

 とてもよくできたラブロマンスだと感心しました。冒頭にて里美の視点から書き出され、その後、健介の視点で描かれ、ふと、その遠いローマの地にて二人は出会うのです。二人は日本に帰り、それが自然のことであるかのように結ばれます。ちょっと気になったのは、結ばれた二人の間に、妙ないい訳みたいな描写がでてくるところです。里美は夫の光を裏切り、健介は妻を裏切っているのですから、敢えてそのことは書かなくても、読者には書かれてないことも自然と伝わって来るのではないでしょうか。里美も健介も悪気のない人間として、ストーリー上には描かれています。『エーゲ海』というタイトルはロマンチックですね。もしかしたら、こちらにも旅行されたことがあるのかなあ、なんて思いました。エーゲ海は、西洋とアジアを引き寄せている要です。