2022年11月の例会報告

毎月、会長が報告して下さる例会報告です。

  • 日時:11月20日(日)
  • 例会出席者:6名

映画日記 61

 61回目の映画日記ですけれど、その数字に作者が合わせたのか、掲載された作品数もピタリと「61」です。偶然のようなものが重なって、それが61で、なおかつ6+1で、ラッキーセブンです。上映作品が多いのは、若い人たちが映画作りに参入してきているからで、明るい状況だと、映画狂の友人が話していました。それにしても、これはだいぶ以前からのことですが、大きな 物語がなくなってしまったな、と感じています。多くの人と連帯する素地が消失してしまい、個人的な世界 のあれこれに終始せざるをえない状況は結構しんどいです。今年の秋、『ゴッドファーザー』の第一部と、第二部と、第三部をテレビで連続して観ました。この『ゴッドファーザー』と、ソ連映画の『戦争と平和』と、ギリシャ映画なのでしょうか『ある旅人一座の記録』(?)が好きです。

アイキュロス

 とても読み易い作品なのですけれど、へんなところもあります。それは、視点人物の人称がないことです。妻と二人でのギリシャ旅行なのに、妻と連れそう「わたし」がいるけれど、いない風に書かれているのです。このギクシャクとした感じが、末尾にあるギリシャ演劇となぜかコラボしているように思われて不思議です。そのギリシャ演劇は、それを形容するととても淡白な物語だなと思われました。ただ、純粋な想いがポンとそこにあるという感じです。生粋で、純粋なもの。それにしてもギリシャって、ローマの隣国という感じがあまりしません。ローマ人は人間臭いけれど、ギリシャ人は、なぜか神臭いのです。日本でいえば、イザナギ、イザナミ、みたいな感じがします。でも、こんな作品が書けたのですから、とても意味ある旅行になられたようで、幸いです。

東尋坊水死体の謎 4

「東尋坊水死体の謎4」まできまして、ふっ、と思うと、迷宮に入り込んだような思いがします。殺人事件と高速増殖炉が合わせ鏡のようになって、謎が謎として増殖していくのです。謎の根本は原子力発電の困難さにあるのですが、それに由来して生起した「殺人事件」は、原子力とは別の領域である「人間の正しさ」みたいなものを提起することによって、何事かを見極めようとする、とても深い創作動機が窺えます。技術者であること、役人であること、新聞記者であること、‥‥家族であること市民であること、それぞれにおいて、守るべきものや進むべき道が異なり、今、ここ、なのです。読者は、作者が提供してくれる作品を楽しめばよいのですが、ここまでくると、なにやら結末が近いような感じがして、ああなるのだろうか、こうなるのだろうかと、次号が楽しみです。

ティッシュペーパー散布機

 とても面白い発想の下での作品です。一般的な小説は、重要な思考や論理的構造で構成したものを描写していくのですが、この作品ではその逆で、無意味なもののまわりで右往左往する様に終始するのです。はて、さて、ティッシュペーパー散布機ってなんでしょうか。在っても無くてもよいものなのでしようが、いざ、それが意味と価値とを持って存在するとなると、奇妙な世界がやってきます。ティッシュペーパー散布機に、つまりティッシュペーパーを大量に必要とする出来事とは何か、と想像すると、その「大量に必要」と関連してくるのかもしれません。大量に人が死ぬのです。悲しみは巷に満ち、皆が涙を流すのです。コロナなのか、今の戦争なのか‥。作中にスイカズラの花の香りが好きとありますが、花には珍しく、悲しみを表現するような香りがします。

こころを持たずに生まれてきたのは、あなたのせいじゃない、と彼女は言った

 奇異をてらった文章ではないのに、読み進めていくととても不思議な文章になっています。大方の文章は、書かれるものの合理性に則ったり、または、それに反したものを綴るのですが、この作品ではそうはならず、一文、一文が、おそらく発話者の側で成されていて、お互いの道筋はないままに進んでしまうのです。そのことは、視点人物において顕著に表れます。「かの女」と表記されていますが、その「かの女」は=「わたし・ミチコ」なのです。ですので、この作品は基本的に一人称小説なのですけれども、そうとも言えないところがあって、もしかすると無人称的世界を実験的に試みた小説でもあります。その上に、アメリカと東京と、父の死=葬儀は田舎でと、多岐にわたっていて、馴染みの本屋さんで気兼ねなく、次々と棚から抜き出して読んでいる一コマなのかも。

ゆうやけ橋のまりこさん

 とても感動した作品です。人の情というものを書かせたら作者は天下一品です。それと風景描写にも秀でた感性を発揮します。ということで、山梨の小さな駅から介護施設の「いちょう園」までの、黄金色の銀杏の葉の散る景色の中を、親切なタクシーの運転手さんと共に向かいます。その介護施設「いちょう園」で川合由恵さんと出逢えたのですから、ほんとうに幸いでした。由恵さんは、タイトルにある「まりこさん」の母親です。視点人物の「井原美佳子」と、川合まりこさんとの接点はどういうことか、不謹慎ながら私は失念してしまっています。なんとなく思うのは、ゆうやけ橋の上で赤い服を着た「まりこさん」を描いた絵を見た記憶がある、といったことのような気がします。その絵を描いたのは、絵描きのお父さんだったのでは…? 大間違いれかもしれません。