2021年10月の例会報告

毎月、会長が報告して下さる例会報告です。

  • 日時:10月17日(日)
  • 例会出席者:11名

エセ― 14

 お宝発掘ということで、中国の武漢在住の作家が個人的ブログにあげた、それは当時の暮らしぶりや葛藤を書いただけなのに当局ににらまれ、何度も削除される羽目に合ったけれど、そこに火がつき、著作となり、世界的に読まれているという「お宝の発掘」物語です。それと韓国の「済州島の4・3事件」とはどういう関係があるのか、よくわかりませんでした。この「4・3事件」に関しては金石範の長編小説『火山島』で有名です。戦争が終結して自由選挙をしたら、左翼政権が誕生してしまい、これをアメリカが認めず、何万人もが死亡した新たな内乱が始まってしまったのです。このことと、武漢在住の作家とのつながりがよくわかりませんでした。合評会の出席者も知っている方がいませんでした。この4・3事件により金石範や金時鐘は命からがら日本へ亡命しました。

宿根草 デルフィニウム

 金子友禅ビル2Fでの合評会の部屋で、花瓶にいけられた稲穂を見て、わが家に送られてきた稲穂に似ているなと思い、稲穂に顔立ちなんかないのではないかと思いつつ、この稲穂どうしたんですかと宇都木さんに伺うと、梅琴さん、とすぐに返事がなされ、あれっ、やっぱりと、宇都木さんのところにも我が家にも、野の秋の風情が送られてきたことをありがたく思いました。特にコロナ下での自然はありがたいです。ということで「デルフィニウム」です。宿根草なのに宿根草ではないデルフィニウムと格闘しますが、宿根草足りえません。日本の夏を越すことが難しく、日本にては一年草になってしまうとのことです。でも、いろいろと工夫されて調べたことはすばらしいですし、なんとなくですが梅琴さんならできるのではないかと、不思議と思ってしまいます。

スクタリの聖女 2

 ナイチンゲールに関しての知識はまったく持ち合わせていないのですが、前回・今回と読ませていただきまして、すごい人だなと、初めて思いました。というのも今回の冒頭に書かれているように、「自己否定」のできる人だということ、この当時において自己否定ができる能力を持つ人がどのくらいいたかです。ほとんどいなかったのではないでしょうか。現在においても、さほどいないのが残念です。自己否定できる力は哲学の領分と言ってもよいでしょう。万単位の兵隊が白兵戦を戦うと、戦場のいたるところに負傷した兵士が満ちたでしょう。ところがナイチンゲールに従って赴任した看護婦は、たかだか20~30名くらいです。だとすると地獄図絵のような状況だったでしょう。晩年になって、自己の名声を受け入れず、孤独に過ごしたナイチンゲールは、まさに天使です。

ポルトガルの秋

 驚きました。これまでうまいエッセーを沢山書かれてきた作者が、そのうまさをかなぐり捨てて、目の前にある場面を見たままに自分の視点で描写した初の作品、ほとんど小説ともいえる作品です。いつもですと、奥様サービスの旅行記でした。もちろん、自分の視点で書くこともありますが、どっぷりと浸り作品空間に歩を進めることはありませんでした。今回はそのようなことが何カ所かあります。特に評判がよかったのは結末の部分。この旅行で思い出すのは「広場で見た壁に寄りかかる松葉杖の老人と、ただ眠るだけの犬の姿しか現れてこない」というのは、情景の果実のようだとの意見を皆さん述べられていました。ほんとにすばらしい描写です。とはいえ、その分だけ奥様の登場場面が少なくなり、ポルトガル旅行の話になったら家庭サービスをしなければなりませんね。

フランス外人部隊

 インドシナでの、ベトナムでの第二次世界大戦時の戦況目まぐるしい状況がよくわかる作品でした。このような展開があったといことは全く知りませんでしたので、圧巻でした。当のフランス軍のヴィシー政権はドイツや日本に対して友好的だったけれど、政権がド・ゴールに代わると反日になるという、ややこしいものでした。誠少尉の部隊はフランス軍を捕虜にしましたが、それを中隊長は捕虜にはせず虐殺せよと命令するのです。つまり国際法を犯せとの命令です。ここのところが【外人部隊】というものを引き立たせる肝なのではないかと思いました。逃亡するのですが、その道のりは遠いです。P244下段後ろから5行目。「弾の銃弾が残す弾道を通した反動が伝わるのを両手に感じた」は、射撃の名手でなければ感じることのできない実感ではないかと、なるほど、です。

かつてそこにあった

 とてもよいタイトルだと思いました。ひらがな表記の「かつてそこにあった」は、ものの実質的な存在を明瞭に現わすけれど、手ににぎることも適わない失われた過去の時間の中にあるのです。(ひらがなのよさ、漢字表記のよさ、それぞれに注意を払うことは必要です)。この作品は、これまで作者が折に触れ書かれてきた小説の集大成なのではないでしょうか。秋紀、春哉、千晶の、人物の描き方は、作品ごとにそれぞれ異なっていました。それが今回の作品のように「秋紀・千晶・春哉」の展開が付属されないのは初めてです。視点人物の秋紀がいて、千晶がいて、春哉は死に静まったままです。ハクモクレンの記述は、個人的な思い出があってよかったです。春のまだ暗い明け方、家路をいそいでいると、ひかりを集めてボオッと合掌したかのようにかがやく白木蓮…。