毎月、会長が報告して下さる例会報告です。
微妙なところに差し掛かっている作品だと感じました。合評会で、この作品は随筆だけれど、ちょっと構成をすれば小説にもなる、と感想が述べられました。なるほどと思いました。感想にも同意見なのですが、もう一つ、タイトルの「雑記 4」に目が行ったのです。それでなるほどなのです。日本の小説、特に私小説は身辺雑記を書いた作品が非常に多いです。「身辺・雑記」なのです。だとすると「雑記 4」も小説の玉子みたいなものかもしれません。「工藤さんはいつ小説を書きはじめるのかな」の声が聞こえてきます。読者に興味のありそうな材料を提示して、作者が下す判断をするりとかわしてしまい、価値判断を読者にさせるあたり、かなり太宰治の文体に近いのかもしれません。一方で、読者に価値判断を委ねているわけではなく、単に空疎感を表現しているのかも……とも。まあ、いずれにしても面白く、楽しめる文章です。だから、小説を読みたいな、というのは人情でしょう。
作品が立つとよく言われますが、これは現実とは別の文学世界が表現されているということです。そのことができた、作者にとってはじめての作品なのではないでしょうか。作者は数多く書かれていますので一概には言えませんが、とにかく優れた作品だと思いました。でも、作品の見せ方がイマイチだとは感じます。時系列で書かれた部分と、回想で書かれた部分がありますが、その並べ方が、やや時系列に沿う書き方になっていて、単調になってしまうのです。冒頭のところで、水槽で泳ぐ全裸の本木さんを描写してみたらいかがでしょうか。少なくとも原稿用紙10枚くらいの分量で…。そうすることができると、作品の非日常性が明確になり、作品全体の書き方にも手を入れる必要が出てくるでしょうが、それをやる価値のある作品、小説だと思います。前編の段階に相応しくないコメントですが、なにか肩入れしたくなるテーマであり、現代文学を匂わせるくれる作品ゆえのことです。
逆名もも子は小説を書きたいと思っている女性。私(先生)はマイナーな思考をする男との設定です。もも子に文学観はなく、小説はリアリズムで表現する物語であると一途に思い込んでいます。私は、強いて言えば、アンチロマン文学の立場をとる男です。先生と言われ口説かれた上には、二人の対話の折り合いを模索し、対話を成立させるために必死なのですが、いつもデッドロックに乗り上げる展開になります。小説、文学、現実と非現実、はたまた日常の出来事、時空間、言葉と言語、様々なものを混沌とさせ、如何にといったところでしょうか。初心者の筈のもも子の学習能力の高さには作者もびっくりです。「小説教室」は10回を予定しています。今回の「小説教室」で唯一リアルなのは、国立天文台の教授・都築信の箇所です。彼は中野重治の娘と結婚、義父・中野重治の汚名を晴らすべく評論を書いていました。なお静止した光が暗黒エネルギーだとは、単に坂本の直観の陳述です。
今回の映画紹介で2作品について、観た方がいました。『かぐや姫の物語』を観て感動したとのことです。現代アニメの極致との感想を述べられました。こちらは★印が5つなのでよいのですが、もう一人の方が観た、『永遠の0』は感動したのに★印が3つで、評価が低すぎるとの感想でした。「終盤の真相解説はくどいが…」とありますが、その真相解明の所で感動したとのことです。まあ、映画は好みなのですから評価は様々です。観てはいないのですが意外に思ったのは、『始まりも終わりもない』の★印が1つだったことです。パンフレットを見て、時間があれば観たいと思っていました。セリフのない映画だそうで、肉体を言語として駆使し表現する、いわゆる実験的映画だそうですね。いかにも前衛を感じさせるパンフレットでした。……劇場の明かりがパッと消え、光がスクリーンからさしてくる。すると一瞬にして異世界に入れる。それが映画の魅力なのだと思います。