2012年 9月の例会報告

毎月、会長が報告して下さる例会報告です。

  • 日時:9月16日(日)
  • 例会出席者:9名

エセー 11

 さらりと書いているので、よくよく考えないと通り過ぎてしまう作品です。そこで考えてみるのですが、この作品自体が作中の「鏡」みたいな構造になっているのではないでしょうか。ですので、このエセーに接している私たちはきっと作中の「男」と同じような立場にあるのです。「ただ見ればいいって? 作る者も、見る者も、みんな、そこにいるって? すべて作品の中に、あるって?」の言葉こそが、『バビロンのような』の現代アート作品に当てはまる本質なのでしょう。作者が行かれた現代アート展は、とても充実した内容だったのではないかと、作品から伺われます。絵があり、空間構造物があり、パフォーマンスありで、芸術の総合があるのです。なによりも大切なのは、芸術を芸術として一般大衆から遠ざけず、むしろ芸術の中に引き込む工夫をしている点でしょう。芸術は鑑賞するものではなく、自らが体験するものだとは重々承知していますが……。

浮標と艀 13

 今回は作者にとっての「浮標と艀」ではなく、自分から離れ、これまでに出逢った人たちの「浮標と艀」になっていて、たいへん面白く読みました。また、合評会でも好評でした。冒頭の「幻影のような」は、副題の〈忘れ得ぬ人々〉の書き出しに相応しい内容で、このパートを置くことによって、次々と思い出の人物が記憶から呼び覚まされる構成になっています。「幻影のような」「大家の婆さん」「年賀の客」の三つのパートは死者に因んだ作品。「他人の空似」「二木島の人々」「平壌異変」は、一転、自分とつながるところでの表現。「女流俳人」は、この部分だけ一種独特な感じがして、文学観みたいなものを味わいました。皆さんに一番人気のあった項です。続く「鍵の思い出」「金環日食と旭天鵬」「東京スカイツリー」の三作品は、冒頭からの作品の思い出の上に、自分の日常を上書きすることによって、丹念に記憶を保持しようとする気構えに感じました。

切る

 いわば、「髪を切る」ことは身を切る痛みにも通じ、純愛小説の感動があります。この時点での感動は、作品を主観的に読むことによってもたらされます。ところが、合評会のおもしろさとでもいうのでしょうか。作者からは、上記のような主観との反対、客観の所在が述べられました。かなり複雑なので、実は私もその詳細はまだわかりません。拓は渚に恋してないと言うのです。拓の恋心、渚の恋心があっての上でこの作品だと思っていたのですが、そこを外されてしまうと、こちらでは解釈ができなくなってしまいます。作者の弁に従えば、明るくて透明なその空間に、実は恋愛なんかではない闇があるのだと聞こえてきます。もしそうだとすれば、そのことに焦点をあてて書かれたら、バリバリの純文学作品になるでしょう。まあ、でも私としては、幼馴染の関係から抜け出せなくなった拓と渚(兄妹→姉弟)の、恋愛に移行することに失敗した悲恋として読みました。

妻の不在

 まだ前編ですが、この小説を読んで、またタイトルを見て、言葉っておもしろいなと思いました。「妻の不在」で、妻の相対語は夫です。「わたし」は夫なのです。夫ゆえに、わたしは駅から家までの坂道を足腰に負担を感じながらも上っていくのです。ここの描写は秀逸です。上り坂、平坦、上り坂の反復は人生にも例えられますし、またこの地域の宅地開発の実際や地層構造にまで思いを馳せ、人間の存在を儚くもさせます。ということで、妻の「不在」は天罰のように降ってきた災いとなるのです。合評会では、何十年と続いた夫の不在に対する妻の不在なのであって、この際、夫には十分不幸を味わっていただきたい、との発言がありました。作者は、ひとつの典形的なサラリーマン家庭の夫妻に書き始めたけれど、結末をどのようにすべきか迷っている、と二次会で述べられていました。末尾にある、「闇の中に、/おーい、と小さく声を上げた」くらいでは、許されないのかもしれません。

屋久島奇譚 上

 作者は山岳紀行文作家のプロです。二次会で盛り上がりまして、紀行を交えた小説を書いてほしい、となりました。それがこの作品です。「屋久島」という紀行文と「奇譚」という小説をいかに構成するか、作者の苦労がわかります。プロローグで駒本という人物をこのように造型したのも、阿禮幽子を登場させる伏線だったでしょう。はじめに中年の女性として現われ、次には四十そこそこの女性、と若返らせています。実体があるのかどうか、後編を読まないと判断できませんが、霊的な存在であることは、この前編だけからでも推察できます。亜熱帯と亜寒帯とが共存し多雨であるということ、それが縄文杉をあらしめているのだと思いますが、その亜熱帯と亜寒帯が、幽子と駒本に相当するのではないかなどと、作品から想像させられました。花崗岩の島、霊的なノロ、二、三代前に大陸から渡ってきたという文化と歴史、こういった混沌が後編でどのように融合されていくのか、今から待ち遠しいです。
 紀行文的なパートには、皆さん圧倒されていました。

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